Back East


楽しかったろ。
それで良かったじゃないか。
悪ふざけの与太話に乗ったのは、あんただ。
失敗したのか?
だから来ないのかよ。


子供のいたずら書きじみた白いヒトガタ。
黒い血痕。馬鹿げた悪夢のような。
うずくまる何人もの紺色の作業服。
催す吐き気と怒りに、目が眩んで。


もうずっと、煙草は止めてたんだけどな。
知らないかもしれないが。
あんたに再会したとたん、軽い学生みたいに。また始めちまった。
俺にだって、まだ。
理不尽さに怒りの声を上げることもナきるんだぞってな。
あの頃みたいに。


痺れを切らして。歩き出す。
パトカーのサイレン。交通整理。人だかり。
サングラスの向こうに見やりながら、俺も。
磁石に引き寄せられる蹉跌のひとつになる、やつらとは違う、明確な意思を持って。


鵜呑みにしすぎたんだよ。あんたは。
逆らってみたって結局守られた反抗で。
そんなの嫌ってくらい知ってただろ。俺たちは。
早く目を覚ませばよかったんだ。
馬鹿だったよ、ほんとにさ。


別々にそこを出た。
向こう側で。一瞬耳が聞こえなくなるような音。
無視してただ走った。
左手に掴んだアタッシェケースが予想以上の重みで。
じっとりと纏わりつく。いやな汗。


喫いたいもんだね。
もう充分ヘビィだってのに。笑っちまう。
こんなものでしか俺たちはこの世を量れない。


PM6:00の表示盤。
捻り潰した煙草の箱。


なァ、そろそろ出て来いよ。
重いんだ、このケース。
一人で持ってるにはさ。
いい加減代わってくれないか。


舌打ちに表情を消して。
無音の喧騒に身を浸す。


Fin July 14, 2004 Hira



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