真夜中、私は物音に気づいてベッドを抜け出した。 シーツをはぐる間も、どきどきしてたまらない。 ううん、どきどきっていうよりも、わくわく、かな。 とにかく楽しみで、つい口元が緩む。寒い空気も、ぜんぜん気にならない。うれしい。 ほんとに、わなに、かかったんだ! 音を立てないようにドアを閉める。静かにろうかを歩く。 たぶんまだ、「それ」はベランダにいる。きしむような音がしたもん。 小さな声も聞こえる。何を言ってるのかよくわからないけど、悪態をついているのかも。 私はちょっと緊張しながら、ベランダの窓ガラスをそっと開けた。 懐中電灯を向けて、スイッチを入れる。それと同時に声をかける。「動かないで」 わなから逃げようと、暗い中でもぞもぞ動いていた人がぎょっとしたようにこっちをふり向く。その一瞬、顔だけ白く見えて、お化けみたい。ちょっと怖い。 あれ? でもおかしいな‥‥‥。想像より、ずっと若そう。私が思ってた人と、違う人が引っかかっちゃったのかもしれない。そうだとしたら、いやだ。 「どろぼう?」 とりあえず、きいてみる。目を細くしていたら、だんだん見えるようになってきた。 真っ赤な服。上下とも少し暗めの赤。えりとか、すそとかの、服の端のほうにはふわふわした白いファーがついてる。 ぼうしも赤い。とんがった帽子のてっぺんにも、白いファー。というか、ポンポン。その格好の中でブーツやベルトだけが他より濃い色―――暗くて見えないけど、きっと茶色―――で、おもちゃ屋さんやケーキ屋さんに立っているアルバイトの人みたいだ。 格好だけなら、捕まえたかったあの人に、ぴったり。でも、イメージと決定的に違うのは、年齢だ。 私はサンタクロースを捕まえたはずなのに、その人は大学生くらいのお兄さんだった。 「‥‥‥お嬢さん、これ、何?」 怪しいお兄さんは引きつった顔で、私が苦労して作ったわなを指差す。 ベランダの一枚ガラスのドアには細い紐が渡してある。 うちに入ろうとしたら紐が切れて、物干し竿の上に仕掛けてあった大きなかごがかぶさるしくみ。かごには鳥もちがわりにスライムもくっつけてある。べたべたは、魔法で少し増幅してある。取ろうとしてもがくと、余計にくっつくようになってる。 「それはわな。サンタクロースを捕まえようと思ったの。あんた、どろぼう?」 お兄さんはなんだか複雑そうな顔をする。私と、わなとを交互に見て言った。慎重そうに、いぶかるように。 「‥‥‥俺が、サンタだけど。捕まえるって何だ」 「うそ。サンタはおじいさんでしょ? 資格認定を受けるために、年齢制限があったはずだもの。どこのアルバイト? ピザ屋?」 「だから、俺はサンタの代理なの。おっしゃるとおりまだ年が届かないから、正式なサンタクロースとしての資格は付与されてないけど。爺さんは神経痛がひどくて、今年は南の島に行ったんだよ。このエリアの担当がいなくなったから、仕方なしにまだ見習いの俺が担ぎ出されたの。 大体サンタクロース捕まえるなんて、立派な国際法違反だろうが。子供だからってそれでお咎めなしになんてならないぞ。取調べを受けて、反省房入りになることもあるんだからな」 必死に、まゆを寄せてその人は説明する。ん、ちょっとかっこいいかもしれない。クラスの子が夢中になってるサッカー選手に似てるかも。 「サンタって、そんなに人手不足なの?」 開けっ放しの窓から冷たい風が入って、寒くて私はカーディガンの前をあわせた。 お兄さんは、いらいらしてきたみたいに、目をぐるりと動かした。 「そりゃね。重労働だからさ。学校で習ってるだろ? 伝統的な職業は、今ではほとんどなり手がいなくて、存続の危機なんだ。俺が子供のころは、クリスマスが近づくたびにサンタクロースの話聞いたし、なりたいってやつもちらほらいたもんだったけどね。 この広い地球で、十二月二十四日の夜が明けるまでに、子供のいる家全部を回らなきゃいけないんだ。重い荷物背負ってな。だから少しでも効率よく回れるようにエリアを区切って、サンタの人数が余ったり足りなくなったりしないように配置するんだ。地域ごとの人口増減のチェックも大切な要素だ。人が増えりゃ、それだけ配るほうも増やさなきゃいけないだろ? ‥‥‥だから勝手に体調不良とかで配置をいじられると、今まで事務方専門だった俺みたいのまでこのくそ寒い中配達に駆り出されて、よく知りもしない地域を地図片手に回って歩く羽目になるんだ」 途中まで社会の勉強みたいだった話が、だんだんこの人の愚痴みたいになってきた。機嫌が悪そうなのも、私に捕まったからだけじゃないみたいだ。 でもやっぱり、おじいさんのサンタクロースが見たかったなって、ちょっと思う。 白いもしゃもしゃのひげに、メタボまっしぐらな出っ張ったおなか。低くてよく通る、あったかい声。顔全体しわくちゃになるような笑顔。みんなが想像するサンタさん。 目の前のお兄さんは、ひげなんてないし。もちろんおなかも出ていない。それどころかすごくすらっとして背が高い。 かっこいい、けどさ。 そんなことを考えて、少しがっかりしながら私はきいた。 「‥‥‥トナカイとそり、見せてくれる?」 大体同じところに似たような家が多すぎるんだ、とか表札も出てないのにどうやって家を特定するんだ、とか言っていたお兄さんは、話の腰を折られたからか、ちょっと不機嫌そうにうなずく。 「トナカイはいないけどね」 といって、ベランダの脇に浮かぶそりを指差す。 冷たく澄んだ空気の中で、音もなくそれは浮いていた。 まるで見えない台に乗ってるみたいに。 後ろのほうに、白い大きな袋も見える。たぶんこれに、プレゼントがつまっているんだ。 こんな大きなそりを、こんなに静かに浮かび上がらせるなんて高等呪文、はじめて見た。 だってこんなの、もう使えるヒトはあんまりいない。 学校の先生も、パパもママもたぶん使えない。 使えなくても、それを補うために科学が発展したから、生活に困ることはないんだけど。 でもやっぱり、目の前で、こういう本物の魔法を見ると、うらやましいって思う。 「‥‥‥まぁ、信じてあげてもいいかな」本当は結構感動してたけど、わざとぶっきらぼうに私はつぶやいた。 サンタは肩を落として、ため息をついた。それから疲れたように、わなとスライムたちを指差した。 「そりゃよかった。光栄だよ、信じてもらえて。じゃあこれ、解いて。こいつらはがしてくんない?」 「上着、脱げばいいでしょ。ついてきて」 「はあ?」 目を白黒させるサンタに、私はかわいく見えるようににこっと笑った。 ちなみに私、ベッドに入ってはいたけど、パジャマじゃない。 クリーム色のワンピースに淡いピンクのカーディガンを羽織って、いかにもいいところのお嬢さんな格好。 深窓のご令嬢って言うの? ストレートで、背中の半分まで伸ばした自慢のさらさらヘアーも、きちんとブローしてある。 それもこれも、今日これからの計画のためだ。 こーんなかわいい女の子に、にっこり笑われて、いやな気持ちになるヒトなんて絶対いない。少し高めのかわいい声で、後を続ける。 「疑うようなことして、ごめんなさい。 迷惑かけちゃったもの。ミルクあっためてあげる。私、サンタさんとお話してみたかったの」 いや、別に、迷惑なんてそんな‥‥‥とかいいながらも、サンタは結構うれしそう。素直に、上着も脱ぎ始めた。 ほらね、やっぱり。 大人なんてちょろいもんだ。 ********** 「そこにかけてて」 私は下の階のリビングに降りると、スライムだらけの赤い上着を脱いで、セーター姿になったサンタにパパのいすをすすめた。 セーターだと、本当にどこかの大学生みたい。でも働いてるってことは、年より若く見える人なのかも。 リビングには、一二月に入ってすぐ、パパがデパートで買ってきたクリスマスツリーが飾ってある。 パパの背の高さと同じくらい。一八〇センチくらいの木には、フェアリーが魔法をかけた小さなガラスボールが、思い思いの色でいくつも光っている。触っても冷たくない、ふわふわした雪が積もった鉢の下には、明日の朝になれば、プレゼントにお願いしたテディベアが置かれているはず。 「‥‥‥君、いくつ?」 私がキッチンに入って、たなから出したマグカップににミルクを注いで、電子レンジに入れていると、めずらしそうに部屋の中を見回していたサンタがきいてきた。 「九歳。三年生よ」 いいながら、私はオレンジの光の中で回るマグカップを見つめる。 縁をくまのマスコットが覗き込んでいるデザインのマグカップ。それが、電子レンジのプレートと一緒にくるくる回る。 レンジの動いてる音って、好きだ。オレンジ色の光も。だんだんと立ち上がってくる白い湯気も。見てると、なんだかあったかくて幸せな気分になる。 「ご両親、は?」 「出張」少し遠慮がちに聞いたサンタに、私は即答する。 ミルクをあっためるときって、結構神経を使う。 やりすぎるとすぐに沸騰してカップから噴き出して、レンジの中が悲惨なことになる。 そんなことになったら、掃除のおばさんに、また文句言われちゃう。 「さびしくないか? クリスマスだろ?」 「べつに。いつものことなの。慣れてるし」 ちーん。あったまり終わった音。 電子レンジからカップを出して、まだ何か言いたそうなサンタの待つリビングに入る。 「私のことはいいんだけど」 サンタの前に、マグカップをおく。白い湯気がつめたい部屋にただよった。 ほんとは暖炉をつけたいけど、子供は火に関係のある魔法を使わせてもらえない。 いただきます、なんて律儀に両手を合わせて、サンタはカップを口元に運んだ。それを見ながら、私は今日の本題を切り出す。 「‥‥‥クラスにね、りょうって男の子がいるの」 「うん?」 ちょっと熱くしすぎたみたい。サンタは目を細くして、ミルクをふいて冷ましてる。 「その子も、今夜、親がいないんだって。りょうの場合は出張じゃなくて、パパとママ、おじいさんちに看病にいってるみたいなんだけど。りょうはうちに一人でいるの」 「うん、それで?」 サンタはようやくミルクをすすりだした。猫舌なのかな。 私は、どきどきしてきた胸の鼓動を抑えようとして、気づかれないように、深呼吸をひとつした。 そうして気持ちを落ち着かせると、ひざの上に置いた手で、握りこぶしをつくる。それから、おもいきって、顔を上げる 「りょうのうちに、私を連れて行きなさい」 少し言葉を強くして、いう。 サンタはびっくりして、ミルクを飲み込みそこねたみたい。気管に入ったのか、げほげほと何回も咳き込んだ。 それにかまわず、私は一息に言葉を続ける。 「りょうっていい子なの。すごくやさしいのよ。勉強もできるし、でもちっともいばったりしないの。サンタはいい子のところにプレゼント持っていくんでしょ? 今年は、私がりょうのプレゼントになるの」 そこまで言って息をついて、テーブルの上に組んだ両手を乗せた。私はその格好でサンタの表情の変化を観察する。 なんとか咳が治まったサンタは、口元にてのひらを当てたまま、私が言ったことを理解できなかったみたいに、ちょっと考えこんだ。それからまゆを寄せて、テーブルの下のほうに吐き出すみたいにつぶやく。 「九歳のがきだろ? ったく、くそ、うらやましい‥‥‥」 少しお行儀の悪いその言葉に、私がまゆをひそめたのに気づいたのか、サンタははじかれたみたいに顔をあげる。 「だめだぞ、そんなの。絶対だめだからな。 俺以外の人間をそりに乗せるなんて、そんなこと知れたら爺さんたちにどやされちまう。ほら、明日とか、日曜日じゃないか。昼間、普通に遊びに行けばいいだろ?」 「‥‥‥あなた、なにもわかってないのね」 私はサンタの言葉の最後にかぶせるように、ため息をつく。 「たのんでるわけじゃないの。わからなかったの?」 「へ?」 裏返った声を上げるサンタを残して、私は電話のほうに立った。 「命令してるのよ」 「ちょっと、お嬢さん?」 サンタが情けない声を上げる。私は受話器を持ち上げた。ボタンはまだ押していない。耳に当てたところから、ツーっていう音が聞こえる。にっこり笑う。そのかわいい笑顔のまま、言葉をつなげる。 「断ったら、不審者がいるって通報するから」 サンタは血相を変えて立ち上がった。思ったより効果あるみたい。自分でもちょっとびっくり。でもそんなのはもちろん表情に出さないで、笑顔のまま私は続ける。 「さ、連れて行くわね?」 ********** 頬に当たる風が冷たくて痛いくらいだ。あんまり目も開けていられないけど、薄目で見ると街の灯りがすごくキレイ。 「くそ‥‥‥クリスマスだってのに‥‥‥俺だって、こんなことに駆り出されてなきゃ、今頃」 「うるさい」 私を包み込むみたいにしてそりの紐を握るサンタの愚痴に、私は冷たい声を投げた。 「頭の上でぐちぐち言われると迷惑なのよね。黙って運転しなさいよ。往生際悪い」 サンタは私の頭のてっぺんにわざとらしくあごを乗っけて、 「お嬢さん。運転手怒らせないほうが身のためだよ? あんまり挑発すると、魔法の調整間違えるからな、カーブのときとか」なんていった。 「‥‥‥そんな風に脅したって、ぜんぜん怖くない」 と、私は重たいあごを押しあげる。 「サンタクロース以外の民間人を乗せたこと以上に、怪我なんてさせたらそれこそおじいさんたちに怒られるわよね?」 「‥‥‥よくご存知で」 苦々しい声が振ってくる。サンタの顔が見えないのが残念。 計画がうまくいって、私はわくわくしていた。 早くりょうの驚く顔がみたい。喜んで、くれるかな? りょうのうちにつくと、サンタは電気のついている窓にそりを寄せた。 私は手袋を取ってその窓をノックする。まだ、起きてるんだ。 窓はすぐに開いた。開く直前、何か話し声みたいなのが聞こえて気になったけど。 「あれ? なに、どうしたの? 何で浮いてんの?」 そりとか、チャーターしたの、とか。そんなサービスあるんだ? とか、丸いメガネを押し上げて、興奮ぎみに、りょうは目をぱちぱちさせてる。驚くだろうなとは思ってたけど、想像通りで、なんかかわいい。ちょっと気分がいい。 「あのね、」 話し始めて、りょうの部屋に他の人がいることに気づく。 「みな、けんじ‥‥‥」 クラスの子だ。よく見るとお菓子の袋が開いてあって、ジュースも並んでる。ゲーム機がテレビにささったまま。ぴこぴこ、なんてかわいい音がしてる。マンガも何冊もあって、みなもけんじも楽しそうにしてる。‥‥‥お泊まり会、みたい。 窓の外に来たのが私だとわかって、ふたりとも、部屋の中から招くように手を振る。 驚いて二人を見つめている私の視線に気づいて、りょうが楽しそうに言う。「ああ、みんな来てくれたんだ。クリスマスに一人じゃ、さびしいんじゃないの?って。みなのお母さんが、車で送ってくれてさ」 「そう‥‥‥そ、なんだ」 私は、そんな気の抜けたような返事しか返せなかった。 せっかく、おしゃれしてきたのに。サンタも捕まえて、ここまで送らせて。結構、入念な準備っていうの、やってきたのに。りょうは驚いてくれたけど、でも、それだけじゃなくって。 「いっしょにやろうよ。まだお菓子とかあるよ。けんじが、お父さんに新しいゲーム買ってもらったんだって。それ、みんなでやってるとこでさ、面白いんだ」 「いらない」 なんかつまんない。何でこんなに腹立つんだろ。りょうはうれしそうで、みなもけんじも楽しそうなのに。 私、別にみなとけんじと仲悪いわけじゃないし。むしろよく一緒に遊ぶほうだ。 席替えで班が離れちゃったら、さびしいとか、つまんないとか、そう思うくらい仲はいい。学校でも、家に帰ってからも、よく話す。 今日のことだって、ちょっと考えてみれば、当然だ。仲いいもの、みんなで遊んだほうが楽しい。りょうがクリスマスに一人ぼっちなら、みんなを誘ってお泊り会くらい、企画するはず。クラスでだって、二人ともそんな話、してたかもしれない。 私最近、サンタを捕まえることで頭の中いっぱいだったから、それ、聞いてなかったんだ。 そんなこと、考えもしないで、一人で浮かれあがっちゃって、恥ずかしい。なんか、ばかみたいじゃない? 「あんたがさびしがってる顔、見に来ただけだから」 りょうの顔を見ないで、私はうつむいて早口に言った。‥‥‥きっと、りょうはわけがわからないって顔、してるんだろうな。 私は頬をぎゅっと引き締めた。 「おやすみ」 ********** 「遊んでいかなくて、よかったのか? ちょっとだったら、待ってたんだけど」 行きとは反対に、すっかり黙り込んでる私に、サンタが話しかけた。もうすぐ私のうちにつく頃。 何なら今からひきかえそうか、なんていいだすサンタに、私はぽつりと言った。 「いいの」 そのまま、目の前でそりの紐をつかむサンタの腕を睨んだ。目がじんじんしてきたのは、寒い上空で目を開けてたせい。くやしいし、恥ずかしいけど、泣いたりなんて、しない。だって、誰も悪くなんてない。 サンタは息を吐いた。 突然、頭にふわっとしたものが乗っかる。 「メリー・クリスマス、お嬢さん」 私の顔の横に自分の顔を持ってきて、困ったように笑いながら、サンタがささやいた。 頭に乗っかったふわっとしたものは、サンタのぼうしだ。 「配達、おつかれさま」 ‥‥‥顔がこんなに熱いのは、ぼうしが乗っかってるせいだ。サンタ、きっと体温が高いんだ。 耳が熱いのは、ずっと風に吹かれてたせいで。 わけわかんない。苦しくて、心臓がどくどくして、鼻のおくが痛くなる。目が潤んできて、私はあわてて下を向く。 「メリー・クリスマス」 小さな声で、私はそうつぶやいた。 うつむいていると、すぐにベランダについてしまった。 いつもの私のうち。誰もいないうちだ。 スライムだらけの上着じゃあんまりだから、私はこの間ママがバーゲンで買ったパパのコートをサンタにあげた。黒いのだけど、サンタは結構気に入ったみたいだった。 うん、おじいさんじゃないんだもの、黒いコートのほうがずっとかっこいい。 「ねえ」 それじゃあ、と片手を挙げて、次のうちに行こうとしていたサンタを、私は呼び止める。 「来年もまた、来てよね。おじいさんの神経痛、きっと一年じゃよくならないわよ」 サンタはびっくりしたみたいに私を見た。なんだか恥ずかしくなって、目をそらす。 「お嬢さんが、いい子にしてたらね」 サンタが笑う。私の頭に乗ったぼうしを、いたずらみたいにちょっと引き下げて。 「また、かごいっぱいのスライムで歓迎してあげる。ううん、もっとすごいわなにする。きっとびっくりするくらい。 魔法もうんと勉強して、サンタの配達、手伝ってあげる。ミルクも、すごく熱くして待ってるから」 だから。 また、着てよね。 遠くなる後ろ姿に、私は声を張り上げた。最後のは、自分の心の中だけで言った。 黒いコートを着て、少し言葉の悪い、私のサンタクロースに。 Fin November 08, 2010 Hira
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